すこやか通信-2021年11月号-

新庄監督とセンス

 日本で12人しかその年になることが出来ない、男子たるもの最も憧れるべき職業(「グラゼ ニ」、という漫画より)、プロ野球の監督に面白い人がなりました。既に周囲の評価は高く、「頭がいい」「野球のセンスがある」「練習量が多かった」「色々と考えているようだ」で、「きっといい監督になる」と報道されています。
 45歳の私にとって名監督とは「故 野村監督」や「落合監督」です。あまり異存はないと思います。なので意外な人選でしたが、私を含め多くの人の楽しみが増えました。

 監督ではないのですが、かねてより私の持論として、チームの主将は努力する人なら誰でもいい、というのがあります。実際に医大生の頃、母校では過去例がない2年連続で投票によって高校までの経験がない私がバスケットボール部の主将を務めました(医大の部活ですので、監督はいないチームです、全権を私が持つことになります)。女子部員や看護学生も入れると50人を超える多所帯になりました。

 ここで新庄監督が1年契約ということに少し不安を感じます。私が2年主将をさせていただいた経験からすると、1年目は私の考えをチームに浸透させて、2年目でチームがまとまる、という構図だったからです。それくらい1年目は失敗という名の経験を積みました。
 新庄監督にも2年は監督を最低でもしてほしい、と思っています。野球のセンスの塊の新庄選手ですが、私なりのセンスの定義は、「センス」=「直感」+「経験」だからです。もっと簡単に言うと「センス」=「脳の引き出しの数」+「引き出しの容量」と言い換えられます。医学的な私個人の考えですが、人間の記憶のなかには、意識せずに何かのときにパッと思い出せるのが「潜在記憶」(これを直感とします)で、若い頃は直感を大事に行動することが多く、それで失敗することも多いのではないでしょうか。そして自分の意思で引き出せるものが「顕在記憶(知識)」(これを経験とします)です。「顕在記憶」とは研鑽や経験で、脳の中のシナプスが増え記憶力を高めることで増える記憶力のことです。

 新庄監督は選手としてのセンスは抜群でも、どうしても監督1年目は直感に頼ることも多いと思います。2年目に1年目の経験を活かせればセンスある名監督になれるはず、と応援しています。なにせ明るい!前向きな姿勢は周囲の人を惹きつけることだと思います(心配性な私としては羨ましい面もありますが、医師は心配性の方が絶対的にいいと信じています)。

 医師としてのセンスも同じです。物事を多く知り、その事象に詳しい人こそセンスがある医師だと思います。センスを磨く、というのは私見ではありますが、多くの疾患を受け持ったことで「あっ、この症例は診たことがある」という直感と、その疾患に対して「かなり研鑽を積んでいるので想定外のことにも対応できる」という勉強法が良いと信じ、今も研鑽していく所存です。

一宮きずなクリニック
院長 福田 大和