すこやか通信-2022年12月号-

・・・モーツァルトの影・・・

 11月20日 高知ポップス・オーケストラ20周年記念コンサート「シネマ・パラダイス」~心に響く映画音楽~を聞きに行った。所はオレンジホール、我が中川先生率いる楽団である。15曲の映画音楽を編曲していて感動ものであったので、是非ご紹介したい。

 福田心臓消化器内科からは12人参加していた。私は真ん前中央に陣取った。バイオリン13人、チェロ、ウッドベース各3人、トランペット・オーボエ・フルート・サックスなど47士の精鋭だ。

 最初の曲は「大いなる西部」。軽快なリズムで始まった。目をつむって耳を澄ましてみた。何という事だ。そこには、大いなる荒野、駅馬車、騎兵隊、インデアン、空を舞う大鷲が浮かび、鉄砲の音まで聞こえるのだ。時代を超えた西部劇の空間に入ってしまっている。オーケストラの迫力に目を奪われてしまった。

 真ん中、真ん前に陣取った私には、全部の楽器が見えない。前に聳え立つのは、真っ黒な礼服を着た指揮者の後ろ姿だ。弱弱しい細身の体つき、頭はボサボサの乱れ髪。しかし、動きはとても俊敏だ。今日は指揮者に注目して観てみようと心に決めた。

 足でリズムを取っているわけでもない。右手だ。小刻みにそして大きく「タクト」はリズミカルに動いている。右手は休むことなく、手首のスナップを効かせて動き続けていた。その時、左手は人差し指でバイオリンを指さした。すると全身をくねらした様にバイオリンのソロが始まった。絶妙のタイミングである。最初は静かに始まったソロ。指揮者は左手のひらを天井に向け煽り立てるように来い来いと言っている。ぞくっとする演出である。ゆっくりと摘まむように握りしめると次はトランペットを指さした。大きく腕を拡げて全身で世界を揺すぶっているかのように。どうも左手は音の大きさと音質を示しているようだ。全体の音楽を作っているのは指揮者に違いないと確信した。この人は全ての楽器を知り尽くしているのだろうなと思えた。自分でも少し真似てみたのだが、右手を正確に動かしながら自由に左手を動かすことは如何にも難しい。神業なのだ。しかし、真似ていると自分が指揮者と重なってオーケストラの中心にいるようでとても爽快な気分だ。真ん前に陣取ったのも失敗ではなかったようだ。多分ではあるが、指揮者は一人で何回もこの曲に合わせて踊るような練習を繰り返したに違いない。

 後半は、指揮者が変わった。小太りの高齢者。面白いことに全く違う音楽になった。体全体で指揮を執るこの指揮者。リズムの速さも変えている。川の流れが速くなったり、曲がったり。更にすごい。空間も時間も操っているのだ。指揮者が変わると音楽性そのものが変わるようだ。もしも、指揮者がいなかったら全体をこのように変えることは到底無理な話だ。指揮者は、一番大きな楽器だ。人間性も表現できているようであった。

 私の頭の中で、モーツァルト、バッハ、チャイコフスキーが蘇った。何とも迫力のある素敵な演奏であった。

 ブラボー!(ブラボーは男の人に対するほめ言葉)女の人にはブラビー!か。

 後でみんなと飲みにでも行こうと思ったが出遅れて会えずじまい。

 帰って、家内と韓国ドラマの「ベートーベン」をしみじみと見たのであった。

 追伸。オーケストラは貴族の音楽と言うけれど、今回はサクスフォンもメンバーに入っていたことに嬉しさを感じました。