すこやか通信-2022年7月号-

パウル・クルッツェンが唱える人新世における地域包括ケアシステムの在り方

 以下は私(福田大和)の私見である。オゾンホール層でノーベル賞を受賞したドイツ人研究者のパウル・クルッツェンは環境破壊の時代(約200年前から現代)を「人新世(ジンシンセイ、でも、ヒトシンセイ、でもどちらでも読み方は良いそうです)」を名付けました。最近のベストセラーでも「人新世における『資本論』」(著者:経済思想家の斎藤幸平 氏)があります。この本では最近流行りのSDGsに反対の立場である。SDGsのDは開発を意味する。持続可能(S)な「開発(D)」が資本主義の限界が来ているのに良くないだろう、という考えである。

 例として著名人が面白いことを言っていたので紹介させてもらうと、車好きでもあまり知られていない「テスラ」という会社がTwitter社を買収した。これはSDGsで電気自動車が良い、とされたので、多くの人が金を儲けるためにテスラ社に投資したからだ。電気自動車は国の方針で売れるから作りまくる。使われるリチウムは南米のチリから採取される。必要以上に。

 つまりSDGsは見せかけである、ということであると、斎藤幸平 氏は説いている。

 資本主義を続けるかどうか、は私は詳しくないが、医療について国営化してしまう、というのは難しいし、郵政民営化とは違うと私は考える。

 既に地域包括システム(自助、互助、共助、公助)も2025年問題や過疎地域問題によって崩壊しかけているように考えられる。医療や教育などのコモン(世の中になくてはならないもの)を完全国営化してしまうと、医療においてはイギリスのように医療の質の低下を招き、完全民間委託してしまうとアメリカのように医療サービスを受けられる格差が出てくる。今の日本の国民皆保険制度は維持されるべきであると考える。全ての医療・介護者は患者さん、利用者さんの「状態が良くなった」はもちろん、「有難う」の一言がかなりのインセンティブであり、生き甲斐でもあり、仕事として辞めにくいものではある。

 しかし地域包括システムを守る、つまり住み慣れた地域で、できれば自宅で、楽しく過ごす、ということに関しては色んな本や有識者の意見だけではなく、現場の意見を取り入れて、政府に間違った判断をしてほしくない、と思う。政治家は「逃げ切れる世代」だからである。今の40(もしかして50)代以下は逃げ切れない。医療は政策とは無関係ではいられない。目の前の患者さんを治すことだけに集中できない不条理なものである。

一宮きずなクリニック
院長 福田 大和