福田理事長のすこやか通信-2020年8月号-

「死なないで欲しい」

 2020年7月31日、新型コロナウイルス国内感染最多1570人。

 3月に流行の始まった新型コロナウイルスは一時終焉を迎えたかに思われたが、第二期感染拡大を迎えたようだ。世界はこれからどうなるのだろう。

思い返せば、コロナの名を聞いてから、何も良いことがないようだ。ただ一つ、あるとすれば、日本では今年1月以降自殺が減っている事ぐらいだ。1月から6月には1割、3月以降では2~3割、自殺が少なくなっている。

 何故なのかは解らないが、感染症で人が亡くなるのを見ると死にたいという気持ちが失せるのか、自分より不幸な人を見ると生きたいと思うのか、謎ではあるが、そんなところだろう。命を大事にしてくれるのは、喜ばしいことではあるが、コロナの流行後は違った意味での心配事が増えてきている。いわゆる負のスパイラルだ。

 例えば、頑固一徹(仮称)さん、88歳男性。高血圧、狭心症、脳梗塞で通院中の真面目なご近所のおじいちゃん。受診日には予約の1時間前から律儀に待ってくれている。来院時や興奮時には血圧は200を超えて真っ赤になる人だ。ところが、この頑固さん、3月以降来院されていない。気になって状態確認のためスタッフに電話を掛けてもらった。「オレオレ詐欺はお断り。」とガチャンと切られてしまった。その後、電話には出ず。一応お元気なことは確認できた。それではと相談員にお家に行ってもらったところ、「押し売りはお断り。」と顔も見せない有様。何とか薬だけは飲んで頂こうとお届けしたところ、コロナが怖くて3月以降は家を出ないという事であった。しばらくお薬はお送りする事にしたが、食事が取れているのか心配である。

 次は佐川の山の中に住んでいる潔癖スギ代(仮称)さん夫婦。とりあえず病院には来てくれている。お二人ともに痩せ細っている。話を聞いたところ、日常生活では誰とも顔を合わさない生活を送っている。人の作ったものや触ったものを食べるのも怖いらしく、家庭菜園で自給自足の生活を送っているとの事だ。二人暮らしだがお互いも警戒しているようで、食事の回数も減らしているとの事だ。受診時もそれはもう大変。採血などでも少しでも触ろうとすると喚き散らし、座る事も出来ない。何とか診察させてくれたのが不思議なくらいだ。

 最後に、安楽望(仮称)さん。肺癌の手術後とても経過良く5年が経っている。7月になりALS患者の嘱託殺人後の事だ。殺人事件だというのに、コロナ流行後は不安が続き、生活もだんだん大変になるとの事で、いざという時は安楽死させてくれと言うのだ。コロナの流行で心の病が異様に増えているようだ。このまま、流行が続いて、みんなの心が荒んでいくと今後自殺と孤独死が増えそうなのが心配だ。

 精神科の友人に聞いてみた。自殺したいという人に思い留まってもらうにはどうしたらいいのか。少し考えて、彼が出した答えはこうだ。いろいろ試したことはあるが難しい。最終的には「死なないで欲しい。」と言ってあげるのが一番良い、との事であった。

 こんな時代、日頃から、みんなで声掛け合うのが大切だと改めて思います。