福田理事長のすこやか通信-2020年2月号-

【死因「老衰」とは何か。(藤村憲治)】

 我が家の食卓の上に家内が何気なく置いてある一冊の本です。

 2017年、日本で老衰死は、1位癌、2位心疾患に次いで第3位の死因となっています。遂に脳梗塞を抜いてしまったわけです。NHKでも取り上げられていたので話題となっています。

 興味津々、早速手に取って読もうかと思ったのですが、何となくやめました。自分なりの考えをまとめてからにしよう。読んでしまうと先入観が入って自分の考えがまとまらないと思ったからです。

 私の場合、死亡診断書に「老衰」と書いた回数は数えきれません。多くの医者は、老衰という診断をためらう傾向にあります。詳しい確実な死因が見つけられていないという敗北的な観念がそう思わせるのかもしれません。実際、日本とデンマーク以外では老衰死はほとんど記載されていません。ある意味文化的な死因と言えます。

 老衰には2種類あります。一つは年齢と共に心身が衰え、天寿を全うしたうえで死亡すること。二つ目は、高齢者であり他に記載すべき原因のない死亡です。

 最近の老衰には、後者が増えています。これは、24時間ルールという診断書記載マニュアルが原因です。在宅で亡くなった人の場合、24時間以内ならかかりつけ医が死亡診断書を書くことができ、事件や検死にならないというルールがあるからです。高齢者が自宅、施設で亡くなった場合に自然死であるという意味で「老衰」と書くことが多いのです。

 平均寿命が延び、医療体制が充実している日本では、いろんな病気に罹患しても簡単には死んでいないというのが現実でしょう。

 私は老衰と書くときには、良く長生きしてくれた、お疲れさま、という意味で、その方が幸せな人生を歩めたことを一緒に喜びたいと思って書いています。そして「老衰」と書けることを誇りにしています。

 何をもって老衰とするのか?これはとても難しい。脳梗塞の再発や内臓の病院があるのかもしれません。しかし、治療を必要としない状態であることも多くあり、何かが潜んでいることもあまり問題とならない事が多いです。

 樹木希林さんが亡くなった時の事を思い出します。彼女の場合、全身のがん転移でしたが、事前に解ったことで、死ぬことを受け止め、したいことが出来たことを良かったと言っておられました。ご主人との最後の時間も過ごせて幸せであったと書いてありました。

 老衰という掴みどころのない病態もそうです。予兆はあるのです。老衰死を迎える際には、全身の慢性的な炎症で細胞の数が減少し、臓器の機能が低下していきます。胃腸の機能も衰えるため食事を取っているにも関わらず痩せていく事になります。最終的には、食べ物を受け付けなくなり、体重がどんどん減っていきます。また、次第に筋肉が衰えることで、歩ける距離が短くなる、転びやすくなるなど当たり前に出来ていたことが出来なくなり、行動範囲が狭くなります。さらに、脳の機能も低下し考える力も衰えがちです。

 老衰は何歳からという定義はありませんが、一般的に80歳を超えていることが目安となります。80歳を超えて「痩せた」「食事が極端に減った」「一日中寝ている」などの症状が出ればその前兆と言えます。周りの人にそんな人がいたら気を付けてあげてください。いつまで生活を継続でいるか分かりませんが、全く食べなくなって1週間というのが目安です。

 今回は踏み込んだ話になりましたが、私は「老衰」と言える最後であれば幸せだと思っています。

追伸。これから、話題の本を読んでみる事にします。新たな発見があればいいのですが・・・・。