福田理事長のすこやか通信-2020年5月号-

The world before and after COVID-19
(新型コロナウイルス出現前と出現後の世界)

 これを書き始めたのは4/12で、修正しているのは4/26である。あまりにも局面が変わるので一度書いたものを書き直すしかなかった。2020年は新型コロナウイルス(COVID-19)の年、とのちに語られる可能性がある。

 さて、現時点では高知県は四国の中でも特に感染者の方が多く、県策も不透明で遅いように感じるのは私だけだろうか?未だに「よさこい祭り」の中止が決まっておらず(絶対に中止になるのは誰しもが分かっていることであるにもよらず)、パチンコ店は普通に営業し、ひろめ市場はそのままになっていたり、日曜市を中途半端に扱ったり、と(遡れば、龍馬マラソンはするべきではなかった、と当時から私や数人の友人は言い続けていた、がなんの考えもなく、通常に開催された。せめて高知県人だけにする、などいくらでも手はあったはずだ)。

 そんな中、世の中は、とある人たちにとっては、COVID-19による自宅での自粛要請によって、だいぶ変わった。「五体不満足」の著者、乙武さんはfacebook(正確にはnote) で「以前から我々障害を持つものによって、必要と言い続けて来た自宅での勤務、コンサートの配信などが、この1-2ヶ月で驚くべきほど進んだ。知っておいて欲しいのは、乗りたくても満員電車に乗れず、コンサートも行けない人がいるけども、その他大勢の人の意見で声がかき消される」というものである。

ならば、医療や介護はどうなるのか?実際には最前線での「その場にいなければいけない医療」は間違いなく以前もこれからも必要で、「地域包括ケア」の中心は「当直(本当の医師の当直は外来業務がほぼなく、救急車の対応をせず充分な睡眠がとれること、と定義されている、がそんな当直をしている病院に勤めたことがないので分からない)を月に7回して、次の日も「休日扱い」の日に通常勤務している医師が担っていると私は思っている。「包括医療ケアの中心」は患者さん、いやいや訪問看護ステーションである、という医師以外のコメディカルに対して 巧言令色 な講演会が多くあった。そういった医師は一度36時間連続勤務後に仮眠しかとれない日が続き、24時間365日病院から30分以内で帰ってこられるような携帯電話に「束縛」されるという仕事をしてもらいたい(そういった講演会をする人は過酷な勤務をしていない、したことがない医師である確率100%である)。そういう最前線に立ったこともない医師が唱える「地域包括ケア」は砂上の楼閣、畳の上の水練である。
 最終的にそこが崩壊すると「包括医療ケア」だのなんだの言っていられないのであることが今回の COVID-19 による医療崩壊でわかったことだと思われる。当直している医師がいなければ、「医療」ができない。さらに、より重症の方を夜中診る医師こそが、自分の寿命を削って医療をしているのである。実際に当直をすると交換神経が興奮し、早死にする可能性があるという報告がある。患者さんが寝たきりにならないようにするには、昼夜働き詰めの医師が緊急の手術を含む治療があってのことであることを軽視されていたツケがまわってきただけである。ちなみに医療崩壊は COVID-19 前の世界にも、2000年から2010年にかけて「立ち去り型サボタージュ」という形で、過酷な労働条件による医師のモチベーション低下、コンビニ受診、モンスターペイシェント、医療訴訟問題ですでに日本も経験しているのであるが、今回の医療崩壊は、世界一斉におきた、また別の意味での医療崩壊である。 COVID-19 によって、今まで軽視されていたものが重要視され、終息(収束)後にはより良くなった世界になるだろうか?

 私はそうは思わない。今まで問題視されていた「南海トラフ問題」や「原発問題」が置き去りにされているからである。今、高知で大きな地震が起こったら?など、県、国としての危機管理ができていないように思われる。最悪のケースを考えておかないといけない、という医療の世界では通塗(つうず)のことが出来ていないことに非常に歯痒さを感じている。しかし、ひょっとしたら用意周到に考えられていて、迅速な対処ができるようになっていたら、県の対策本部の方、すみません。ただそういったヴィジョンは示してもらわないと分かりません。 COVID-19 後の世界が訪れて、「良かった良かった」、ではなく、今出来ることをそれぞれの立場で考えておくことこそが、後の世の中に重要であると思っている。

最後に今、町医者である私ができることとしては、「コロナが蔓延している時期こそ、基礎疾患の管理がより重要」であると思っている。最終拠点病院で現在働いていない私に出来ることは、コロナ感染予防の推進だけでなく、患者さんがCOVID-19に万が一、どこかで罹患してしまった時に、いかに合併症(心不全、腎不全、脳梗塞)を起こさないようにしておくか、が大事であると考え、治療に臨んでいる。これはCOVID-19前の世界でも当然重要なことでもあった。COVID-19後の世界では、COVID-19が定着し流行性の感染症が増える未来の可能性を考えておき、より重要と患者さんに思ってもらうことが大事である。COVID-19の感染予防の重要性はもちろん最も大事なことだが、それだけが先走り過ぎていることは危険である。 なぜならCOVID-19の次の新しいより恐ろしい感染症もでてくる可能性があるからである。

一宮きずなクリニック 院長 福田大和